グラフィカルモデリング(GM)
グラフィカルモデリング(GM)は複数の変数間の関係の「方向性」と「強さ」を 視覚的・数量的に表すことができる多変量解析手法の1つです。直接操作不能な目標(利益・売上・満足度・好感度等)を達成するために企業は何を操作するべきなのか、その構造を把握できます。
1.真の因果関係とは
ここではまず、50m走のタイムと年収と年齢の関係を例に用います。
通常、変数間の関連を調べるには相関係数を用いますが、その結果を図1に表しました。すべての変数間の相関は非常に高いと言えます。ここからは、「年収が高くなると、50m走のタイムが高くなる。つまり、年収があがると50m走が遅くなる」と言うことが読み取れそうですが、本当に正しいのでしょうか。
図1. 相関係数では
そこで、3変数の関係をグラフィカルモデリング(GM)の考え方を用いて分析すると図2のようになりました。50m走と年収には関連がなく、両変数ともに「年齢」に依存していたのです。年齢が上がると年収も高くなり、50m走のタイムも遅くなる傾向があったため、結果として相関係数の見かけ上、年収と50m走の2変数間に関係があるように映っていたのです。
図2. グラフィカルモデリング(GM)の考え方を用いると
ここで、「年齢」は原因であり、「50m走のタイム」・「年収」はその原因によって影響された結果であると解釈できますが、このようにグラフィカルモデリング(GM)の考え方を用いて因果関係を推論していくことで、企業が追及している結果(利益・売上・シェア・好感度・満足度)を変化させるためにどのような変数を操作すべきか浮き彫りにしていくことができるのです。
2.グラフィカルモデリング(GM)とは
2-1. 偏相関係数の理解
それでは、具体的にグラフィカルモデリング(GM)とはどのようなものかを詳細に見ていきましょう。
グラフィカルモデリング(GM)では、2変数間の関係性を表す尺度として通常の相関係数(単相関係数)ではなく偏相関係数を利用します。と言うのも単相関係数では、「擬似相関」と呼ばれる見かけ上の相関関係を検出することができず、たくさんの変数がある中での2変数間の純粋な関係の強さを表せないためです。(図3)
図3. 相関係数の読み方
「擬似相関」とは冒頭の例のように、本来「年収」と「50m走のタイム」の間に相関関係は存在しないのにもかかわらず、別の変数「年齢」の値が変化するために、それに伴って「年収」と「50m走のタイム」も変化し、その結果「年収」と「50m走のタイム」の間の相関係数が見かけ上高くなってしまう状態を指します。
このような「擬似相関」を検出するための偏相関係数とは、「他の条件を一定とした場合の2変数の相関関係の強さ」を表す尺度です。つまり上の例で考えるならば、「年収」と「50m走のタイム」の偏相関係数は「年齢」が同じ人同士で比べた場合の「年収」と「50m走のタイム」の相関係数だと言うことになります(図4)。このように他の変数が一定であるという条件を加えることで、他の変数で説明できている相関関係である擬似相関を排除し、2変数間の純粋な相関関係を知ることができるのです。
図4. 偏相関係数の読み方
※偏相関係数:他の条件を一定とした場合の2変数の相関関係の強さ。
擬似相関を排除できる。
2-2. 関係性の選択
グラフィカルモデリング(GM)ではまず、モデルに含めるすべての変数間の関係を偏相関係数で表します。
カップラーメンに対する満足度とそれに関連する変数について次のような結果が得られたとしましょう。図5では2変数間の偏相関係数の大きさがその2変数を結んでいる線分の太さで表されています。例えば「麺の量が多い」と「満腹になる」は偏相関係数が0.6と高い値を示しており、関係が深いといえます。
図5. 偏相関係係数出力
偏相関係数が非常に低い2変数で、「偏相関係数がゼロ(これを条件付独立と呼びます)」と仮定できる部分を探索し、モデルをシンプルにしていきます。このような、関係性の有無を選択する過程を「共分散選択」と呼びますが、具体的にはこの過程では下記のようなステップを踏んでいきます。
- 偏相関係数が低い変数のペアから、2変数が無関係(条件付独立)であると仮定していく。
- 新しく条件付独立を仮定したことにより、元のデータとの整合性が落ちていないかを確認。
- 整合性が低下していなければ、その2変数をこれより条件付独立として扱う。
これらのステップを繰り返していくことにより、データの中に潜んでいる関係性を抽出していくのです。図5ではすでに条件付独立と仮定できる部分に関しては、線分で結ばれていません。
最終的に関係がないと仮定する変数の組を決定すると、残りの関係がある変数同士を線分で結んだまま図の形をほぐしていくことができます(図6)。このカップラーメンの例の場合には下記のように関係を整理できます。
図6. 図5の変形
※条件付独立:他の条件を一定とした場合に、2つの変数間にまったく相関関係がないこと。
2-3. 方向の選択
この時点では、変数間の関係は単に方向性を持っていない線分で表されている状態となります。因果関係を推論するにあたっては、「AだからBである」なのか「BだからAである」なのかを明らかにする必要性がありますが、実はこの部分はデータだけで決定できません。
図7. 完成したグラフィカルモデリング(GM)
しかし、このように変数間の関係を階層的に整理した状態から探索的に最も合理的な因果関係の方向性を採用することでモデルに方向性を持たせることができますし、定性調査を活用して方向性を事前に探るなどで客観性を確保することも可能です。また、分析の過程においてさまざまな矢印の向きについて考えることも、マーケティング戦略を考える上で大きな示唆が得られるでしょう。カップラーメンの例において考えられる方向性を入力したものが図7となります。
※さらに詳細な手法に興味のある方は、(株)リコーの廣野元久氏著:「グラフィカルモデリング(GM)の実際」日科技連出版などをご参考ください。
3.マーケティングの中でのグラフィカルモデリング(GM)
グラフィカルモデリング(GM)を用いると、以上のようなステップでさまざまな変数間の関係を視覚的・数量的に表現できます。このことによってカップラーメンの例のように、企業が操作できる具体的な製品仕様(カップの大きさ、具の多さ等)がどのような過程を経て、直接操作できない満足度に影響しているのかを解析できるのです。より一般的には、グラフィカルモデリング(GM)により、企業が操作できる変数(製品仕様、広告、訴求ポイント等)がどのような構造で目的変数(利益、売上、満足度、好感度、信頼感等)に影響を与えているのかをデータから明らかにできるのです。この操作可能な変数と目的変数との関係の構造が明らかになれば 企業として目的を達成するためにまず何をすればよいか、どのように資源を配分するべきか、何を訴求すべきかを考えていく上での大きな示唆を得ることができるでしょう。
また「探索的である」という点もグラフィカルモデリング(GM)の特徴として重要です。他の因果関係を推論するための手法と違い、自分で仮説としてのモデルを組み立てるのではなく、データを頼りに関係性を浮き彫りにしていくグラフィカルモデリング(GM)においては、データから得られた結果と知見や経験を比較することにより、「意外な気づき」が得られることもあります。自分たちの今までの経験やつくり手側の視点から離れて生活者がどのように考えているのかをそのままモデル化しようとする場合などにおいても、グラフィカルモデリング(GM)は強力な手法であると言えるでしょう。
4.グラフィカルモデリング(GM)の応用と実際
定量調査データを利用するグラフィカルモデリング(GM)では、どのような変数を用意し、どのような設問設計を行うかという部分が最大の問題点となってきます。グラフィカルモデリング(GM)は結局与えられたデータ以上の結果を出すことはできませんので、いかに現実を正しく反映したデータをとるかでアウトプットが少なからず決定されてしまうからです。
このような問題点に対するひとつの解決策は、グラフィカルモデリング(GM)を定性調査と組み合わせて行うことです。特に、評価グリッド法®と呼ばれるインタビュー手法はグラフィカルモデリング(GM)を行う際の選択肢抽出や、関係性の「方向」づけに対して客観的な根拠を与えるものとなります。
また得られる情報が多い分、グラフィカルモデリング(GM)は敏感な手法となりますので、選択肢の抽出だけでなく質問の仕方などで、はっきりした結果を出すために大きく差がでてきます。当社では、お客様の課題に応じて最適な分析を設問設計からサポートしています。
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